2018年10月14日(日)14:30–16:45
於立命館大学 衣笠キャンパス 学而館 GJ402 教室
[ワークショップ]
質料形相論の多角的な検討と応用
提題者 ———— 桑原司(上智大学)
提題者 ——— 千葉将希(東京大学)
各個人発表の概要はこちら:
背景・趣旨説明
質料形相論(hylomorphism; hylemorphism)とは、簡単には「実体は、質料と形相から成る結合体(複合体・統合体)である」と述べる理論である。これが近年、分析哲学において復活の様相を呈し始めている。発信地の一つは、疑いなく分析形而上学である。その中心的な旗振り役を担ってきたK. Fineは、90年代から早くも、質料形相論に相当する理論の形式化・洗練を(非古典)メレオロジーの観点から積極的に試みてきた。こうした動きに対してM. Johnston やK. Koslickiをはじめとする様々な論者が呼応する中で、質料形相論は次第に、メレオロジー以外にも様々な形而上学的なテーマの新たな理解と発展に資するものとして注目されることとなった。これまで質料形相論と結び付けられてきたものとしては、たとえば三次元主義、物質的構成、自然種、潜在性、本質、因果的力能などの諸概念を挙げることができる。現在、こうした一連のテーマのもとで論じられる質料形相論(またはそれに類する理論)は、A. MarmodoroやM. Peramatzisなどの古典哲学者も巻き込む仕方で、分析形而上学における一つの潮流とでも呼ぶべき小さなムーブメントを形成しつつある。
他方で、質料形相論の復活は――それは二千年以上もの間幾度となく「復活」させられてきたのだが――決して局所的な現象というわけではない。上記の潮流からは比較的独立だと思われる文脈・動機を出自とする「質料形相論」もまた、近年になって脚光を浴びているからである。簡単にいくつか具体例を挙げておこう。①心の哲学において、物理主義や心身二元論に対抗する心身の質料形相論。②人の存在論において、従来の動物説の難点を乗り越える理論としての人の質料形相論。③生物学の哲学において、生物個体の発生モジュール性の構造を説明しうるようなエボデボ的な質料形相論。他にも、分析神学的な観点から三位一体論や復活などの教義を新たに捉え直すタイプの質料形相論も、以前にも増して盛んに論じられつつある。
もちろん、こうした事実を「一過性の流行」と切り捨てることも不可能ではないだろう。まして、分析哲学内部で質料形相論が長らく顧みられてこなかったのには、それなりの理由があると考えるべきなのかもしれない。しかし、そのときでも我々は、質料形相論の一種と目される諸理論が各分野において「増加の一途を辿っている」(Rea, M. (2011), “Hylomorphism Reconditioned”, Philosophical Perspectives 25, p. 342)という事実を忘れてはならない。仮にこれが「流行」にすぎないのだとしても、それは注目に値する流行であると我々は考える。
以上の背景を念頭に置いたうえで、本ワークショップ(以下本WS)は、次のような趣旨のもと企画された。その趣旨とは、いまだ発展途上の印象を受ける既存の質料形相論の解釈・是非を検討するというよりも、各提題者が独自の仕方で、比較的好意的に質料形相論を検討し、現代におけるその応用可能性を新たな角度から見定めるというものである。提題者となるのは、古典哲学を専門とする桑原、分析形而上学を専門とする横路、生物学の哲学を専門とする千葉の三人である。我々同床異夢の三人が目指すのは、質料形相論の検討・応用を三つの異なる形而上学的な領域から試みることで、その現代的な意義や射程を多角的に問い直し、質料形相論の可能性と展望を広げることである。
本WSは次の通りに進行する予定である。まず、横路が簡潔に質料形相論の導入と趣旨説明を行い、本WS全体で問題とする「質料形相論」がどのようなものであるかをおおまかに規定する。次に、各提題者が個人発表を行う。大雑把には、桑原はアリストテレスの質料形相論における認識論的な力点について論じ、横路は質料形相論の視点を取り入れた構成主義の必要性と多様性について論じ、千葉は生物を質料形相論的対象として捉える見方の妥当性を論じる。その後、各提題者の論点を要約したうえで相互に討議し、最後に質疑を頂戴する予定である。